共働き夫婦が考える保険と投資のバランス:資産全体最適化とライフイベントへの備え
共働き世帯における資産形成は、単に投資運用を行うことにとどまらず、保険によるリスクへの備えも含めた全体像の中でバランスを取ることが重要となります。特に、教育資金や老後資金といった長期的なライフイベントを見据える場合、不測の事態への対応と資産の成長を両立させる視点が必要不可欠です。本記事では、共働き夫婦が保険と投資をどのように位置づけ、賢くバランスを取るべきかについて考察します。
共働き夫婦における保険と投資の関係性
共働き夫婦の場合、二馬力での収入があるため、世帯収入の安定性という点では単独収入世帯よりも一般的に有利であると言えます。しかし、同時に、どちらか一方または双方のキャリア中断、育児や介護といったライフイベントによる働き方の変化、あるいは予期せぬ病気や怪我による収入減リスクなど、共働きならではのリスクも存在します。
こうしたリスクに備える「保険」と、資産を積極的に増やしていく「投資」は、しばしば相反するものとして捉えられがちですが、実際には資産全体を最適化し、将来のライフイベントに確実に備えるための両輪として機能させることが望ましいと考えられます。
保険の役割を再確認する
保険の最も基本的な役割は、起こる確率は低いものの、発生した場合に経済的に大きなダメージとなり得る事態(死亡、病気、怪我、自然災害など)に対して、経済的な保障を提供する「リスクヘッジ」にあります。
共働き夫婦の場合、万一どちらかが働けなくなった場合でも、もう一方の収入で一定の生活水準を維持できる可能性があります。しかし、子供の教育資金や住宅ローンの返済、将来の老後資金といった長期的な目標がある中で、片方の収入が途絶えたり大幅に減少したりすることは、計画に大きな影響を与えます。この点において、必要な保障を確保するための保険は、「守り」の資産として重要な役割を担います。
公的な保障制度(遺族年金、高額療養費制度、傷病手当金など)についても理解し、それらでカバーできない部分を民間の保険で補うという視点を持つことが重要です。
投資の役割を再確認する
一方、投資は、保有する資産を市場を通じて運用し、その価値を増やしていくことを目的とします。長期的な視点で見れば、複利効果を活用して資産を効率的に増やしたり、インフレーションによる資産の実質価値の目減りを抑えたりする上で有効な手段となります。
教育資金や老後資金といった将来に向けた資金準備において、単に貯蓄するだけでは目標額に到達することが難しい場合や、インフレによって将来必要となる金額が現在想定している以上に膨らむリスクに対応できない場合があります。投資は、こうした長期的な目標達成に向けた「攻め」の資産として位置づけられます。
保険と投資のバランスの考え方
保険と投資の最適なバランスは、世帯のライフステージ、収入、資産状況、そして最も重要な要素として「リスク許容度」によって変化します。
一般的に推奨される基本的な考え方は、まず必要最低限の保障を保険で確保し、その上で余剰資金を投資に回すというものです。ここで言う「必要最低限の保障」とは、万一の事態が発生した場合に、残された家族の生活や、予定していたライフイベント(教育資金など)に必要な資金をまかなえるレベルを指します。公的保障制度を考慮せず、過大な保険に加入することは、本来投資に回せたはずの貴重な資金を保険料として費消してしまうことにつながりかねません。
共働き夫婦の場合、夫婦それぞれの収入があるため、必要な死亡保障額などは単独収入世帯よりも少なく済む傾向があります。ただし、育児期間中など、片方の収入が一時的に減少する期間がある場合は、その期間のリスクを手厚くカバーする必要があるかもしれません。また、夫婦で同じリスク(例えば住宅ローンの団信)を二重にカバーしていないかなども確認すべき点です。
ケーススタディ(架空):40代後半 共働き夫婦のバランス見直し
仮に、40代後半で中学生の子供を持つ共働き夫婦を想定します。夫は会社員、妻は自営業で、世帯年収は約1500万円です。子供の大学進学資金と、自分たちの老後資金(目標:夫婦合計で〇千万円)の準備が目下の大きな目標です。
この夫婦はこれまで、生命保険(お互いに終身保険と医療保険)、学資保険、そして夫婦それぞれで積み立て型の個人年金保険に加入しています。投資としては、夫婦でNISA枠を活用した投資信託の積立を続けています。
資産全体のバランスを見直した際、以下の点が課題として浮かび上がりました。
- 過剰な保障: 夫婦ともに終身保険に加入しているが、公的遺族年金を考慮すると、必要な死亡保障額は想定より少ない可能性がある。特に、子供が独立するまでの期間限定で高額な死亡保障が必要であれば、掛け捨て型の収入保障保険など、より効率的な選択肢があるのではないか。
- 積立型保険の投資効率: 学資保険や個人年金保険は保障機能も持つが、運用利回りという点では投資信託に劣る可能性がある。払い済みにするなど保障を確保しつつ、その後の資金を投資に回す、あるいは今後の積立額を見直すことで、より効率的な資産形成が可能になるのではないか。
- 老後資金目標と現在の資産: 現在の投資ペースと積立型保険の満期金だけでは、設定した老後資金目標額に到達しない可能性がある。必要なリスクを取り、投資比率を高める検討が必要ではないか。
- 夫婦間の情報共有と戦略: 夫婦それぞれの保険・投資加入状況は把握しているが、全体の資産ポートフォリオの中でそれぞれがどのような役割を果たしているか、あるいは過不足はないかといった統合的な視点が不足している。
この見直しに基づき、この夫婦は以下のような対応を検討しました。
- 公的保障を確認した上で、不要な終身保険の一部を整理し、子供が大学を卒業するまでの期間に特化した収入保障保険への加入を検討。
- 学資保険は払い済みにし、その分の資金をリスク許容度に基づいた投資信託の積立に振り向ける。
- 個人年金保険は継続しつつも、新規加入や増額は行わず、その資金をiDeCoなどを活用した投資に回す。
- 夫婦で定期的に資産全体の状況(保険内容、投資ポートフォリオ、目標達成度)を共有する時間を設け、必要に応じて専門家にも相談しながら戦略を調整していく。
この事例はあくまで一例ですが、このように「必要保障額はいくらか」「その保障を確保する最も効率的な方法は何か」「リスクを取って資産を増やす投資にどれだけ資金を回せるか」といった視点を持つことが、保険と投資のバランスを考える上で重要となります。
夫婦での話し合いと定期的な見直し
共働き夫婦が保険と投資のバランスを最適化するためには、夫婦間での率直な話し合いが不可欠です。お互いのリスクに対する考え方、将来の働き方に関する希望、教育資金や老後資金に対する具体的なイメージなどを共有し、共通の目標を設定することが出発点となります。
また、ライフステージの変化(子供の誕生・成長、住宅購入、転職、親の介護など)によって、必要な保障額やリスク許容度は変化します。一度設定したバランスを漫然と続けるのではなく、定期的に(例えば年に一度など)夫婦で話し合い、保険と投資のポートフォリオ全体を見直す習慣を持つことが、変化に対応し、目標達成の確実性を高めるために重要です。
まとめ
共働き夫婦にとって、保険と投資は、それぞれ異なる役割を持ちながらも、資産全体を最適化し、教育資金や老後資金といった将来のライフイベントに確実に備えるための重要な要素です。保険で必要最低限のリスクに備えつつ、「守り」を固め、余剰資金を賢く投資に回すことで「攻め」の姿勢を維持することが、長期的な視点での資産形成の鍵となります。
重要なのは、夫婦それぞれの状況やリスク許容度を正確に把握し、公的な制度も考慮に入れた上で、過不足のない保障と、目標達成に向けた適切な投資戦略のバランスを取ることです。そして、このバランスは静的なものではなく、ライフステージの変化に応じて柔軟に見直し、夫婦で共有していくプロセスが不可欠となります。
ご自身の世帯における保険と投資の現在のバランスについて、夫婦で話し合い、必要であれば専門家の知見も借りながら、最適なバランスを追求していくことが、将来の安心につながる第一歩となるでしょう。