共働き夫婦が取り組むライフイベント別資産計画:教育資金と老後資金を両立させるロードマップとリアルな資産配分
共働きのご夫婦にとって、子供の教育資金準備と自分たちの老後資金準備は、資産形成における二大目標となることが少なくありません。限られた時間の中で、それぞれの目標に向けてどのように計画を立て、実行していくのかは、多くのご家庭が直面する課題です。この記事では、共働き夫婦がこれらの重要なライフイベントに備えるための具体的なロードマップと、資産をどのように配分していくべきかについて、実践的な視点から解説いたします。
共働き夫婦にとってライフイベント別資産計画が重要な理由
共働き夫婦の場合、世帯としての収入は単独で働く場合に比べて高くなる傾向がありますが、同時に教育費や生活費、そして将来への備えといった支出項目も多岐にわたります。また、夫婦それぞれが資産を保有している場合、全体の資産状況を把握し、共通の目標に向かって連携することが不可欠となります。
教育資金は期限が明確であり、子供の進学時期に合わせて必要額が変動する可能性があります。一方、老後資金はより長期的な視点が必要ですが、早期から準備を始めることで複利の効果を最大限に活かすことができます。これら性質の異なる二つの目標に対し、計画なく無原則に進めてしまうと、いずれかの目標達成が困難になったり、効率的な資産形成の機会を逃したりするリスクがあります。
共働き夫婦が協力してライフイベント別の資産計画を立てることは、単に金額目標を設定するだけでなく、お互いのキャリアプランや価値観を共有し、家計全体として最適な意思決定を行う上で非常に重要です。
教育資金準備の具体的な考え方とタイミング
教育資金は、主に高校や大学といった進学に伴って大きな支出が発生します。特に大学費用は私立か国立か、自宅から通うか一人暮らしかによって大きく変動しますが、数百万円から場合によっては1,000万円を超えることもあります。
準備にあたっては、まず「いつまでに」「いくら必要か」を具体的に見積もることが第一歩です。大学入学までの期間を逆算し、毎月・毎年の積立目標額を設定します。教育資金は使う時期がある程度確定しているため、目標時期が近い資金については、リスクを抑えた運用を心がける必要があります。例えば、大学入学が10年以上先であれば、ある程度のリスクを取って積極的に運用することも可能ですが、入学まで5年を切っているような場合は、元本割れのリスクを最小限にする運用が適切です。
学資保険、積立NISA、特定口座での投資信託積立など、様々な方法がありますが、非課税メリットのある制度を優先的に活用しつつ、目標時期に合わせて運用資産の安全性を高めていく(リスク資産から現金や低リスク資産へのシフト)戦略が有効です。
老後資金準備の具体的な考え方と目標設定
老後資金は、教育資金よりもはるかに長い期間をかけて準備する資金です。公的年金制度や退職金の見通しを踏まえつつ、「リタイア後に夫婦でどのような生活を送りたいか」を具体的にイメージすることが重要です。
総務省の家計調査報告などによれば、高齢夫婦無職世帯の平均的な生活費は約26万円程度とされています。ゆとりある生活を目指す場合は、さらに上乗せが必要となるでしょう。仮に、公的年金などで毎月20万円の収入が見込める場合、不足する月6万円を30年間(90歳まで生きると想定)で賄うとすれば、約2,160万円が必要になります。これはあくまで目安であり、個々のご家庭の状況によって必要な金額は大きく異なります。
老後資金準備においては、iDeCo(個人型確定拠出年金)やつみたてNISAといった税制優遇制度の活用が非常に効果的です。これらの制度は長期的な視点での資産形成に適しており、特にiDeCoは掛金が全額所得控除されるため、高い節税効果が期待できます。共働き夫婦の場合、それぞれがこれらの制度を活用することで、より効率的に老後資金を形成することが可能です。
教育資金と老後資金を両立させるロードマップ
教育資金と老後資金を両立させるためには、双方の目標達成に向けたタイムラインを明確にし、優先順位や資金配分を計画的に行うロードマップを作成することが有効です。
- 目標額と時期の具体化: 教育資金(例:大学入学まで〇年で〇円)と老後資金(例:リタイアまで〇年で〇円)それぞれの目標を明確にします。
- 現在の資産状況の把握: 夫婦それぞれの投資資産、預貯金、保険などを一覧化し、現在の「全体」資産を把握します。資産管理アプリなどを活用すると便利です。
- 毎月の積立可能額の設定: 世帯収入、現在の支出を考慮し、教育資金と老後資金にそれぞれ毎月いくら積立できるかを算出します。
- 資金配分の決定: 積立可能額を教育資金と老後資金にどのように配分するかを決定します。一般的には、期限が近い教育資金に必要な額を優先的に確保しつつ、可能な範囲で老後資金への積立も並行して行うことになります。ただし、老後資金は複利効果が大きいため、若いうちから一定額を積み立てておくことが推奨されます。
- 運用方法の選択と実行: 決定した配分に基づき、それぞれの資金目的に合った運用方法(リスク許容度、投資対象)を選択し、実行します。教育資金の一部はリスクを抑えた定期預金や低リスク投資信託、老後資金は長期・分散投資を基本とした国内外株式や不動産投資信託(REIT)など。
- 定期的な見直し: 年に一度など定期的に夫婦で資産状況、積立状況、市場環境を確認し、必要に応じて計画や資産配分を見直します。子供の成長や世帯収入の変化、ライフプランの変更などに応じて柔軟に対応することが重要です。
リアルな資産配分の具体例
共働きで40代後半のご夫婦の場合、教育資金(例えば高校生のお子様がいて数年後に大学入学)と老後資金(リタイアまで15~20年程度)の準備が同時進行している状況が考えられます。
この場合、教育資金については、大学入学までの期間が短いため、必要な資金のうち、数年以内に確実に必要となる部分はリスクの低い預貯金や個人向け国債などで確保しておくことが賢明です。残りの部分について、例えば目標時期まで5年程度ある場合は、バランス型ファンドや低リスクのインデックスファンドで運用することも考えられますが、元本割れリスクには十分注意が必要です。
一方、老後資金については、まだ15年以上の運用期間があるため、比較的高いリスク許容度で運用することが可能です。積立NISAやiDeCoを活用し、国内外の株式インデックスファンドを中心に積み立てを行います。世帯全体の資産ポートフォリオとしては、教育資金用の低リスク資産と老後資金用のリスク資産を組み合わせ、夫婦それぞれの資産も統合して全体のバランスを考慮します。例えば、夫はiDeCoと特定口座で国内外株式、妻はつみたてNISAと特定口座でバランス型ファンドや一部不動産投資信託(REIT)など、役割分担することも有効です。
重要なのは、夫婦で共通の目標と戦略を共有し、お互いの運用状況を把握しておくことです。定期的な家計会議の場で、資産状況や市場の見通しについて話し合い、必要に応じて軌道修正を行います。
成功・失敗事例から学ぶ
ある共働き夫婦Aさんのケースでは、子供が生まれた直後から教育資金を最優先に積立を開始しました。学資保険と積立投資を併用し、着実に教育資金を準備できた一方、老後資金への意識が薄れ、40代後半になってから慌てて老後資金準備を始めることになりました。結果として、老後資金に回せる期間が短くなり、目標達成のためには高いリスクを取るか、生活費を大幅に節約する必要に迫られています。
別の共働き夫婦Bさんのケースでは、早期から教育資金と老後資金の両方について、夫婦で目標と積立額を具体的に共有しました。教育資金は積立NISAと預貯金を使い、目標時期に合わせてリスクを調整。老後資金はiDeCoと特定口座で国内外株式中心の長期分散投資を行いました。定期的に夫婦で資産状況を確認し、市場の変動に一喜一憂せず、淡々と積立を継続。大きな失敗もなく、着実に双方の目標達成に向けて資産を積み上げています。このケースでは、夫婦間での目標共有と継続的なコミュニケーションが成功の鍵となりました。
まとめ
共働き夫婦にとって、教育資金と老後資金の両立は大きな課題ですが、計画的に取り組むことで実現可能です。まず、夫婦でしっかりと話し合い、それぞれの目標額と時期を明確にすることから始めましょう。現在の資産状況を把握し、無理のない範囲で毎月の積立額を設定、教育資金と老後資金に最適な配分を行います。
運用においては、それぞれの資金の目標時期に応じたリスク管理が重要です。教育資金のうち短期間で必要となる部分は安全資産で確保しつつ、長期的な老後資金については税制優遇制度を活用しながらリスク資産への分散投資を行うのが基本的な考え方となります。そして何より、定期的に夫婦で資産状況を確認し、計画を見直す「夫婦会議」の時間を設けることが、変化に対応し、目標達成への道を確実にするために不可欠です。
一歩ずつでも良いので、まずはご夫婦で資産形成の目標について話し合い、具体的な計画を立てて実行に移してみましょう。このプロセス自体が、夫婦の絆を深め、将来に対する安心感を育むことにつながるはずです。