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インフレとリスク許容度変化に応じた共働き夫婦のポートフォリオ戦略:教育・老後資金目標の変動にどう対応するか

Tags: 投資戦略, ポートフォリオ, インフレ対策, リスク許容度, 共働き夫婦, 教育資金, 老後資金, 長期投資

共働き世帯において、教育資金や老後資金といった長期的なライフイベントに向けた資産形成は重要な課題です。しかし、物価の上昇(インフレ)や、ご自身の年齢、子供の成長といったライフステージの変化は、当初立てた資産計画やリスク許容度に影響を与える可能性があります。特に共働き夫婦の場合、お互いの収入や資産状況、キャリアプランなどが異なるため、これらの変化に対して世帯全体としてどのように対応していくかを共有し、戦略を調整していくことが求められます。

本記事では、インフレが資産形成に与える影響と、ライフステージの変化に伴うリスク許容度の変化に焦点を当て、共働き夫婦が長期的な視点でどのようにポートフォリオを見直し、調整していくべきかについて考察します。

インフレが共働き夫婦の資産形成目標に与える影響

近年、世界的に物価上昇が続いており、日本国内でもその影響を感じる機会が増えています。このインフレは、長期的な資産形成において看過できない要素です。

例えば、現在100万円で購入できるモノやサービスは、将来、インフレが進むと同じ金額では購入できなくなります。これは、保有している現預金の価値が実質的に目減りすることを意味します。同様に、教育資金や老後資金として目標とする金額も、将来必要となる時点での物価水準を考慮すると、当初想定していた金額では足りなくなる可能性が生じます。

共働き夫婦の場合、お互いの収入が安定している分、ある程度の貯蓄も可能かもしれません。しかし、その貯蓄を単に現預金として保有しているだけでは、インフレによる購買力の低下リスクに常に晒されることになります。教育費のピークが近い、あるいは退職が視野に入ってきた40代後半のご夫婦にとって、目標時期までの期間が比較的短くなっている分、このインフレリスクへの対応はより現実的な課題となります。

インフレ環境下では、資産を「守る」だけでなく、「実質的な価値を維持・向上させる」視点が重要になります。そのためには、インフレに連動しやすいとされる資産(例えば、株式や不動産、商品など)への投資をポートフォリオに適切に組み入れることが考えられます。

ライフステージの変化とリスク許容度の推移

長期にわたる資産形成の過程では、ご自身の年齢や家族構成、収入状況といったライフステージが変化します。それに伴い、資産運用におけるリスク許容度も自然と変化していくものです。

一般的に、若い時期は収入に対する貯蓄や資産規模が小さく、万が一投資で損失が発生してもその後の長い期間で挽回できる可能性が高いため、比較的リスクの高い資産(例えば成長株など)への投資比率を高くしやすい傾向があります。一方、年齢を重ね、退職や教育資金支出といったライフイベントが近づくにつれて、築き上げてきた資産を大きく減らすことへの抵抗感が増し、リスク許容度は低下していくのが一般的です。資産の「成長」よりも「保全」を重視する時期へと移行します。

共働き夫婦の場合、片方または双方のキャリアの変化(転職、昇進、あるいは働き方の変化など)や、子供の進学段階(小学校、中学校、高校、大学など)によって、世帯全体の収入や支出のパターン、さらには将来の見通しが変化します。例えば、子供が大学進学を控えている場合、数年後にまとまった資金が必要になることが確実視されるため、その資金をリスク資産で保有し続けることへの不安が高まる可能性があります。これは世帯全体のリスク許容度を低下させる要因となり得ます。

このように、ライフステージの変化はリスク許容度と密接に関係しており、長期投資を行う共働き夫婦にとって、定期的に夫婦間でリスク許容度について話し合い、確認することが不可欠です。

インフレとリスク許容度変化に対応するポートフォリオ戦略

インフレによる目標額の変動と、ライフステージ変化に伴うリスク許容度の変化という二つの要素に対応するためには、どのようなポートフォリオ戦略が考えられるでしょうか。

1. 目標金額と達成時期の見直し

まず、インフレを加味した上で、当初設定した教育資金や老後資金といった目標金額が現実的かを見直す必要があります。インフレ率を考慮したシミュレーションを行い、将来必要になるであろう「実質的な」金額を再計算します。そして、その目標達成時期までの残りの期間(タイムホライズン)を確認します。

2. リスク許容度の再評価と夫婦間のすり合わせ

現在のライフステージ、世帯全体の収入・支出状況、そして将来のライフイベントの予定を踏まえ、夫婦で改めてリスク許容度について話し合います。例えば、「あと〇年で教育資金が必要になるから、その分は安全性を重視したい」「退職までまだ期間はあるが、夫婦どちらかの収入が減少する可能性もあるため、少し保守的にしておきたい」といった具体的な状況認識を共有します。夫婦間でのリスクに対する考え方が異なる場合も、具体的な金額や期間を例に挙げながら、お互いの意見をすり合わせることが重要です。

3. ポートフォリオの具体的な調整(リバランスとアセットアロケーション見直し)

リスク許容度の再評価に基づき、具体的なポートフォリオの調整を行います。 インフレ対策としては、インフレに連動しやすい資産クラス(例:株式、REIT、インフレ連動国債など)の比率を維持・検討することが考えられますが、これは同時にリスクも伴います。リスク許容度が低下している場合は、これらの資産の比率を闇雲に増やすのではなく、分散された投資信託などを通じて間接的に組み入れる、あるいは安全資産とバランスを取りながら慎重に行う必要があります。

リスク許容度低下への対応としては、資産全体に占めるリスク資産(株式や一部の不動産など)の比率を段階的に減らし、債券や現金・預金といった安全資産の比率を高めるのが基本的な考え方です。教育資金が必要になる時期が迫っている場合は、その資金として確保しておきたい分を、目標時期までに価格変動リスクの低い資産に移し替えるといった対策が有効です。これは、単なる機械的なリバランスに加えて、資産の目的と目標時期を意識したアセットアロケーションの見直しと言えます。

共働き夫婦の場合、夫婦それぞれの口座で資産を管理しているケースが多いでしょう。世帯全体として最適なポートフォリオを構築するためには、夫婦それぞれの資産を合算して全体像を把握し、世帯全体のリスク許容度に基づいて、それぞれの口座で保有する資産配分を調整していく必要があります。例えば、夫の口座ではリスク資産を減らし、妻の口座では安全資産を増やす、といった連携も考えられます。資産管理ツールなどを活用し、夫婦でリアルタイムに全体の状況を確認できるようにすると、よりスムーズな連携が可能になります。

リアルな事例(架空):ライフイベントに備えたポートフォリオ調整

ここで、40代後半の共働き夫婦が、インフレと子供の進学(大学入学)時期接近という状況を踏まえ、どのようにポートフォリオを見直したか、架空の事例を挙げます。

このご夫婦は、約7年前から投資を開始し、国内外の株式インデックスファンドを中心に積み立ててきました。投資開始当初は積極的にリスクを取り、目標資産額の積み増しを優先していましたが、近年はインフレによる教育費や老後資金の実質的な高騰を懸念するようになりました。また、お子様の大学入学まであと数年となり、教育資金の確保という現実的な課題が目前に迫っています。

夫婦で話し合った結果、以前よりもリスクに対して慎重になりたいという認識で一致しました。特に大学入学に必要な資金は、確実に準備しておく必要があると考えました。

具体的な対応として、世帯全体の資産状況を確認し、以下の調整を行いました。

このように、特定のライフイベントが近づくことによるリスク許容度の低下と、インフレによる目標額の変化という複合的な要因を踏まえ、計画的にポートフォリオを調整していくことが、目標達成に向けた現実的なステップとなります。

まとめ

共働き夫婦が長期的な資産形成を行う上で、インフレによる目標額の変動と、ライフステージ変化に伴うリスク許容度の変化は、適切に対応すべき重要な課題です。これらの変化は、単なる経済環境の変化として捉えるだけでなく、ご自身の家族構成や将来の計画と結びつけて考える必要があります。

重要なのは、変化を認識し、夫婦間で率直に情報と認識を共有し、世帯全体としての方針を決定することです。そして、その方針に基づき、資産の目的や目標時期を踏まえながら、ポートフォリオの具体的な調整を行っていくことです。定期的な見直しと、夫婦間の継続的なコミュニケーションが、変化の波に乗りながら、着実に資産形成の目標を達成するための鍵となります。