金利上昇・リセッション局面、共働き夫婦はどう資産を守り、次のチャンスを掴むか:ポートフォリオ見直しと夫婦の協働
経済環境の変化に共働き夫婦はどう向き合うか
近年、世界の経済は変動が大きく、特に金利の上昇や景気後退(リセッション)への懸念が話題となる機会が増えています。長期的な視点で資産形成に取り組む共働き夫婦にとって、このようなマクロ経済の変化は、これまでの投資戦略を見直すきっかけとなり得ます。
教育資金や老後資金など、具体的なライフイベントに向けた資産形成を進めている皆様の中には、現在のポートフォリオで良いのか、あるいはどのように対応すべきか迷われている方もいらっしゃるかもしれません。共働き夫婦には、二つの収入源があるという強みがある一方で、日々の忙しさの中で投資に関する情報収集や夫婦での話し合いの時間を確保することが難しいという側面もあります。
この記事では、金利上昇やリセッションが資産運用に与える影響を整理し、共働き夫婦がこのような局面でどのように資産を守り、さらに将来の投資機会に備えることができるかについて、ポートフォリオの見直し方や夫婦間の協働の重要性に焦点を当てて考察いたします。
金利上昇とリセッションが資産運用に与える影響
まず、金利上昇とリセッションが資産運用にどのような影響を与えるかを理解することは重要です。
- 金利上昇: 政策金利が上昇すると、一般的に債券の価格は下落します(既発債の利回りが相対的に低くなるため)。また、企業の資金調達コストが増加し、株式市場にネガティブな影響を与える可能性があります。住宅ローン金利の上昇は、不動産市場の停滞にもつながり得ます。一方で、預金金利の上昇は、現金や短期金融資産の魅力が高まることを意味します。
- リセッション(景気後退): 企業の業績悪化が懸念され、株式市場は下落しやすい傾向にあります。失業率の増加や消費の低迷などにより、経済活動が縮小します。安全資産とされる円や一部の債券などが買われる「質への逃避」が見られることもあります。
これらの変化は、株式、債券、不動産といった異なる資産クラスに様々な影響を及ぼします。分散投資を行っている場合でも、ポートフォリオ全体の値動きに影響が出ることが想定されます。
共働き夫婦が考えるべき現状認識とリスク許容度
このような局面において、共働き夫婦がまず行うべきは、現状の資産状況とリスク許容度を夫婦で再確認することです。
- 資産状況の「見える化」と共有: 夫婦それぞれの口座にある資産を含め、ポートフォリオ全体が現在どのような資産配分になっているかを改めて把握します。資産管理アプリなどを活用し、いつでも最新の状況を確認できる状態を維持することが望ましいでしょう。
- リスク許容度の再確認: 金利上昇やリセッションの可能性が高まる状況下で、ご自身やご夫婦として、どの程度の資産価値の変動までなら許容できるかを話し合います。教育資金や老後資金が必要となる時期までの期間(投資期間)や、今後見込まれる収入の安定性、緊急資金の準備状況などを考慮に入れる必要があります。
共働きの場合、仮にどちらかの収入が不安定になったとしても、もう一方の収入で家計を支えられる可能性があり、単独世帯と比較してリスク許容度が高いと判断できるケースもあります。一方で、子供の教育費のピークが近い、あるいは定年退職が迫っているといったライフイベントが間近に迫っている場合は、リスクを抑えたいと考えるのが一般的です。夫婦の状況に合わせて、現実的なリスク許容度を共有することが大切です。
ポートフォリオ見直しの具体的な考え方
金利上昇・リセッション局面におけるポートフォリオの見直しは、必ずしも大幅な資産売却を意味するものではありません。現在の経済環境とご夫婦のリスク許容度に合わせて、長期的な目標達成に向けた軌道修正を行うという視点が重要です。
- リスク資産(株式)への向き合い方:
- リセッション期には企業の業績悪化が懸念されますが、株価の下落は将来的な買い場となる可能性も秘めています。長期投資を前提とするならば、積立投資を継続することや、リスク許容度の範囲内で下落局面での買い増しを検討することも考えられます。
- ただし、直近で大きな資金を使う予定がある場合は、該当する資産についてはリスクを抑えた運用に切り替える、あるいは現金化しておくなどの対応が必要です。
- 安全資産(債券、現金)の役割:
- 金利上昇局面では債券価格は下落しやすいですが、今後金利が落ち着いたり、景気後退が深刻化したりすれば、再び債券が安全資産として機能する場面も想定されます。ポートフォリオにおける債券の役割(リスク分散、安定性)を考慮し、保有比率を検討します。金利上昇に比較的強いとされる物価連動債や短期債などを検討する視点もあり得ます。
- キャッシュポジションの重要性は増します。金利上昇により現金の価値が相対的に高まることに加え、市場が不安定な時期に精神的な安定をもたらし、万が一の支出への備えや、市場下落時における投資機会を捉えるための「弾薬」となります。共働き夫婦の場合、お互いの収入状況を踏まえ、どれくらいのキャッシュがあれば安心できるかを話し合い、適切な水準を保つことが望ましいでしょう。
- 不動産投資への影響:
- 金利上昇は不動産価格に影響を与える可能性があります。不動産投資を行っている場合は、ローンの金利タイプ(変動か固定か)や、家賃収入への影響などを評価し、ポートフォリオ全体における不動産の割合とリスクを再評価します。
ポートフォリオの見直しは、夫婦それぞれの口座で個別に行うのではなく、夫婦合算した全体最適の視点で行うことが理想的です。例えば、夫の口座で株式の比率が高い場合、妻の口座では債券や現金の比率を高めるといった調整が考えられます。
リアルな体験談(架空):経済変動期における共働き夫婦の対応
ここで、経済変動期における架空の共働き夫婦の事例をご紹介します。
事例1:情報共有不足で焦ってしまったAさん夫婦(40代後半、教育関連職)
Aさん夫婦は、個別株や投資信託で積極的に資産運用を行っていましたが、日々の業務に追われ、夫婦間で投資状況を詳しく共有する習慣がありませんでした。景気後退への懸念が高まり市場が下落し始めた際、夫は不安を感じ、妻に相談なく一部の株式を慌てて売却しました。しかし、妻は夫とは異なる情報源を見ており、長期的な視点から積立投資を継続すべきと考えていました。夫の独断での売却を知り、夫婦間で意見が対立。結果的に、売却した価格よりも後に株価が回復し、機会損失につながってしまいました。この経験から、経済状況が不確実な時期こそ、夫婦で冷静に情報共有し、共通の認識を持つことの重要性を痛感したといいます。
事例2:定期的な夫婦会議で冷静に対応したBさん夫婦(40代後半、IT・医療職)
Bさん夫婦は、定期的に夫婦会議の時間を設け、家計や資産運用について話し合う習慣を持っていました。金利上昇やリセッションの兆候が見え始めた頃、夫婦で今後の経済シナリオや自分たちのリスク許容度について話し合いました。その結果、教育資金が必要になる時期まではまだ数年あること、夫婦ともに比較的安定した収入があることを踏まえ、リスク資産の保有比率を大きく変えないことを確認しました。ただし、精神的な安心感を高めるため、夫婦合算で半年分の生活費に相当する金額を、金利が上昇傾向にある普通預金や短期MMFに移すことを決めました。市場が下落した局面では、夫婦で合意していた範囲内で、淡々と積立投資を継続し、一部の銘柄を買い増すことができました。この経験を通じて、夫婦で事前に話し合い、共通の計画を持っていることが、不確実な状況でも冷静な判断を下す上で大きな支えとなることを実感したといいます。
これらの事例からわかるように、経済環境の変化に対応するためには、夫婦間での情報共有と意思決定のプロセスが極めて重要です。
夫婦で協働するための具体的な方法
忙しい共働き夫婦が、経済変動期に投資について効果的に協働するためには、いくつかの工夫が考えられます。
- 定期的な話し合いの時間を設ける: 毎週あるいは隔週など、短い時間でも良いので、夫婦で資産状況や経済ニュースについて話す時間を設けることを習慣化します。夕食後や週末の午前中など、お互いに落ち着いて話せる時間帯を選ぶことが有効です。
- 情報共有の効率化: 夫婦で別々の情報源をチェックしている場合、共有すべき情報を効率的に伝え合う工夫をします。例えば、重要なニュースや記事をチャットアプリで共有したり、気になる点をリストアップしておき、話し合いの時間に確認したりする方法があります。
- 役割分担の検討: 情報収集やツールの管理など、得意な方が担当するといった役割分担も効果的です。ただし、最終的な投資判断は夫婦で行うようにします。
- 共通の目標とリスク許容度を確認する: 何のために投資をしているのか(目標)と、どの程度のリスクを受け入れられるのか(リスク許容度)を常に意識し、共有することが、意見のすれ違いを防ぎ、困難な局面でもブレない判断を下す土台となります。
結論:変化の時こそ夫婦で向き合う
金利上昇やリセッションといった経済環境の変化は、長期投資における避けられない局面です。このような時期は、資産価値が一時的に目減りする可能性もありますが、同時にポートフォリオを見直し、将来の成長に向けた準備をする機会でもあります。
共働き夫婦にとって、この変化の時を乗り越える鍵は、夫婦での協働にあります。お互いの収入状況やリスク許容度を理解し、資産全体を把握した上で、共通の目標に基づいたポートフォリオ戦略を立て、実行していくこと。そして何よりも、不確実な状況下でも冷静に判断するために、夫婦で定期的に話し合い、情報と認識を共有する習慣を持つことが重要です。
この記事が、共働き夫婦の皆様が現在の経済環境と向き合い、将来の資産形成に向けて新たな一歩を踏み出すための一助となれば幸いです。まずは、ご夫婦で現在のポートフォリオとリスク許容度について、ざっくばらんに話し合ってみることから始めてみてはいかがでしょうか。