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共働き夫婦が考える資産の取り崩し戦略:教育・老後資金に向けたロードマップと留意点

Tags: 共働き夫婦, 資産運用, 取り崩し戦略, 教育資金, 老後資金, 税金対策, ライフプラン

共働き夫婦にとって、長期にわたる資産形成は重要な目標です。しかし、形成した資産を教育資金や老後資金といったライフイベントに合わせて、どのように効率的かつ計画的に取り崩していくかという「出口戦略」もまた、資産形成の最終目標を達成するために不可欠な要素となります。特に、夫婦それぞれが資産を管理している場合、全体最適を考慮した取り崩し計画はさらに複雑になります。

本稿では、教育資金と老後資金という、共働き夫婦が同時に直面する可能性のある主要なライフイベントに向けた資産の取り崩し戦略に焦点を当て、具体的なロードマップと留意点について考察します。

共働き夫婦が資産の取り崩し戦略を考えるべき理由

共働き夫婦の場合、それぞれがNISAやiDeCoといった非課税口座を保有していることに加え、特定口座やその他の資産(不動産、保険など)を個別に、あるいは共有名義で保有していることが一般的です。このため、単独名義で資産を保有している場合と比較して、以下の点が複雑になります。

教育資金の取り崩し戦略

お子様の教育資金は、進路によって必要となる時期や金額が大きく変動する予測困難な要素を含みます。取り崩しにあたっては、以下の点を考慮します。

  1. 必要な時期と金額の確認: 高校、大学といった進学時期や、私立か公立かといった選択によって必要な金額を試算します。
  2. 保有資産の優先順位付け:
    • 学資保険: 満期時期が決まっているため、優先的に活用を検討します。
    • ジュニアNISA: お子様名義で運用しており、非課税で払い出しが可能です。18歳まで払い出し制限がありましたが、制度改正により制限が撤廃されたため、必要に応じて柔軟な活用が可能となりました。
    • 特定口座・一般口座: 運用益に対して税金がかかります(原則20.315%)。他の非課税資産を活用した後で、必要に応じて取り崩しを検討します。夫婦それぞれの特定口座がある場合、どちらから取り崩すか、あるいは分散するかを検討します。
    • その他: 預貯金、親や祖父母からの贈与なども考慮に入れます。
  3. 非課税枠の活用: ジュニアNISAを活用している場合は、非課税での払い出しを行います。特定口座の運用益にかかる税金を避けるため、NISA口座(一般NISA・つみたてNISA)の非課税期間が終了した資産についても、課税口座に移管する前に取り崩しを検討することが有効な場合があります。
  4. リアルな事例(架空): Aさん夫婦(40代後半)は、大学入学に向けて教育資金500万円を準備する必要があります。お子様のジュニアNISA口座に100万円、夫婦それぞれの特定口座に教育資金として分けていた運用資産が計400万円(うち評価益100万円)、学資保険の満期金が100万円あります。この場合、学資保険(非課税)、ジュニアNISA(非課税)を優先的に活用し、合計200万円を確保します。残りの300万円を特定口座から取り崩す際、評価益100万円にかかる譲渡所得税約20万円を考慮する必要があります。夫婦どちらの特定口座から取り崩すか、あるいは両方から取り崩すかで、他の資産の状況や今後の運用方針も踏まえて判断します。

老後資金の取り崩し戦略

老後資金は、教育資金と異なり「いつまで必要か」が不確実であり、「長生きリスク」に備えた計画的な取り崩しが求められます。また、公的年金との組み合わせや、より長期にわたる税金の影響を考慮する必要があります。

  1. 公的年金の見込み額確認: 夫婦それぞれの年金受給見込み額を確認し、老後の基本生活費に対する充足率を把握します。不足分を自己資産で補う計画を立てます。
  2. 保有資産の優先順位付け:
    • iDeCo: 原則として60歳以降に受け取りが可能となり、受け取り方法(一時金、年金)によって税制優遇が異なります。一時金受け取りは退職所得控除、年金受け取りは公的年金等控除の対象となります。夫婦それぞれが加入している場合は、それぞれの受け取り方とタイミングを検討します。
    • NISA(新NISA含む): 非課税で運用益を受け取れます。老後資金のコアとして優先的に活用を検討します。
    • 特定口座・一般口座: 運用益に税金がかかります。取り崩しタイミングや税負担を考慮します。
    • その他: 預貯金、退職金、不動産(売却または賃貸収入)、終身保険なども含めて全体で考えます。
  3. 取り崩し方法の検討:
    • 定率取り崩し: 資産残高の一定割合を毎年取り崩す方法です。資産が減りにくいメリットがありますが、毎年受け取る金額が変動します。
    • 定額取り崩し: 毎年一定額を取り崩す方法です。生活設計が立てやすいですが、資産が早期に枯渇するリスクがあります。
    • 柔軟な取り崩し: 資産状況やその時の必要に応じて、取り崩し額を調整する方法です。
  4. 税金を考慮した取り崩し順序:
    • 税制上の優遇が大きいiDeCoの一時金(退職所得控除)やNISA口座の資産(非課税)を優先的に活用することを検討します。
    • 特定口座からの取り崩しは譲渡所得税がかかります。含み益が大きい資産を一度に大量に取り崩すと税負担が大きくなるため、計画的な取り崩しが必要です。
    • 不動産を売却する場合は、譲渡所得税がかかります。長期保有(5年超)の方が税率が優遇されます。
    • 夫婦それぞれが資産を保有している場合、例えば譲渡所得税がかかる資産の場合、含み損が出ている資産から取り崩す、あるいは夫婦間で譲渡所得を分散させるといった検討も可能ですが、これは専門家(税理士など)に相談することをお勧めします。
  5. リアルな事例(架空): Bさん夫婦(50代後半)は、65歳でのリタイアを控えています。夫婦それぞれのiDeCo口座に1000万円、夫婦それぞれの新NISA口座に2000万円、夫婦それぞれの特定口座に含み益のある資産が計3000万円、預貯金1000万円があります。年間400万円の生活費のうち、公的年金で200万円が賄える見込みです。不足する年間200万円を自己資産で賄う計画を立てます。まず、非課税である新NISA口座から年間200万円を取り崩すことを検討します。これにより、運用益に対する税金を支払うことなく資金を得られます。新NISA枠を使い切る、あるいはさらに資金が必要になった場合、iDeCoの一時金受け取り(退職所得控除枠を活用)や、特定口座からの取り崩し(税負担を考慮しつつ計画的に)を検討します。夫婦で相談し、それぞれの資産状況や退職金の見込み、相続の意向なども踏まえ、どちらの資産から取り崩すかを決定します。

共働き夫婦ならではの検討ポイントと成功の鍵

共働き夫婦の資産取り崩し戦略を成功させるためには、以下の点が重要になります。

まとめ

共働き夫婦が教育資金や老後資金といったライフイベントに向けて資産を取り崩す際は、夫婦それぞれの資産状況、非課税制度、税金、そして今後のライフプラン全体を統合的に考慮した計画が必要です。教育資金は必要時期が比較的明確ですが、老後資金は長期にわたり、長生きリスクや税金の影響を大きく受けます。

成功の鍵は、夫婦間での継続的なコミュニケーションと資産状況の「見える化」を通じた情報共有、そして変化に応じた柔軟な計画の見直しにあります。税制上の優遇措置を最大限に活用しつつ、計画的かつ効率的な取り崩しを行うことで、長期にわたる資産形成の成果を最大限に活かし、安心してライフイベントを迎えることが可能となるでしょう。

まずは、夫婦で現状の資産状況を確認し、教育資金や老後資金について具体的な必要時期と金額のイメージを共有することから始めてみるのが良いでしょう。