共働き夫婦が実践する非課税制度の活用戦略:NISA・iDeCo夫婦それぞれの最適解と全体設計
共働き世帯にとって、夫婦それぞれが働くことで得られる収入は、資産形成の大きなアドバンテージとなります。特にNISAやiDeCoといった非課税制度を夫婦それぞれが活用できる点は、単身世帯や片働き世帯と比較して、より効率的な資産形成を可能にする重要な要素です。
これらの制度は、投資から得られる運用益や将来の受け取りにかかる税負担を軽減または非課税とする、非常に有利な仕組みです。しかし、夫婦それぞれが個別に制度を利用する場合、限られた非課税枠をどのように使い分けるべきか、また、夫婦全体の資産形成という視点から、どのようにバランスを取るべきかといった課題が生じます。
本記事では、共働き夫婦が非課税制度を最大限に活用し、夫婦全体の資産形成を最適化するための具体的な戦略と考え方について解説します。
共働き夫婦がNISAを活用する際の視点
NISA制度は、投資から得られる売却益や分配金が非課税となる制度です。夫婦それぞれが非課税枠を利用できるため、夫婦合算では単身者の2倍の非課税投資枠を持つことになります。
新NISA制度では、「つみたて投資枠」(年間120万円)と「成長投資枠」(年間240万円)があり、合わせて年間360万円、生涯で1,800万円の非課税投資枠(簿価ベース)があります。共働き夫婦の場合、この枠がそれぞれに付与されます。
夫婦それぞれのNISA枠をどのように使うかは、夫婦のリスク許容度、資産状況、投資目標によって異なります。
- 目標期間に応じた使い分け: 教育資金など、比較的目標時期が近い資金については、リスクを抑えた運用を検討し、つみたて投資枠を中心に活用することが考えられます。一方、老後資金など長期的な視点での運用については、成長投資枠も活用し、より成長性の高い資産クラスへの投資を検討することも可能です。
- リスク許容度に応じた使い分け: 夫婦間でリスク許容度が異なる場合、リスク許容度の高い方が成長投資枠で積極的にリスク資産に投資し、リスク許容度の低い方がつみたて投資枠で安定的な運用を行うといった分担も考えられます。
- 夫婦それぞれの収入や資産背景: どちらか一方の収入が多い場合や、既に多額の特定口座資産がある場合など、個別の状況に応じて非課税枠の利用優先度を調整する必要が生じることもあります。
例えば、Aさん夫婦(40代後半)の場合、夫は比較的リスクを取れる一方、妻は安定志向です。夫は成長投資枠で国内外株式を中心に積極的に投資し、妻はつみたて投資枠で低コストのインデックスファンドに積立投資を行うといった形で、夫婦それぞれのNISA枠を活用しています。これにより、夫婦全体の資産ポートフォリオは、リスクとリターンのバランスを取りながら構築されています。
共働き夫婦がiDeCoを活用する際の視点
iDeCo(個人型確定拠出年金)は、将来のための資産形成を目的とした私的年金制度です。iDeCoの最大のメリットは、以下の3点です。
- 掛金が全額所得控除の対象となる: 年間の掛金全額が課税所得から差し引かれるため、所得税・住民税の負担を軽減できます。これは特に所得の高い共働き夫婦にとって、非常に大きなメリットとなります。
- 運用益が非課税となる: NISAと同様、運用期間中に発生した利益には税金がかかりません。
- 受け取る際にも税制優遇がある: 一時金として受け取る場合は退職所得控除、年金として受け取る場合は公的年金等控除の対象となります。
iDeCoは原則60歳まで資産を引き出せないという制約がありますが、老後資金の準備という目的においては非常に強力なツールです。
共働き夫婦の場合、夫婦それぞれがiDeCoに加入し、掛金を拠出することで、世帯全体の税負担を大きく軽減できる可能性があります。特に、夫婦ともに企業年金がない場合など、それぞれの拠出限度額まで最大限に活用することを検討すべきです。
例えば、Bさん夫婦(40代後半)はともに会社員で、企業年金がありません。夫、妻ともにiDeCoに毎月2.3万円(年間27.6万円)ずつ拠出しており、夫婦合計で年間55.2万円の所得控除を受けています。これにより、所得税・住民税が年間で約10万円以上軽減されており、その分を他の投資や貯蓄に回すことで、さらに資産形成を加速させています。
夫婦それぞれの制度活用パターンと全体設計
共働き夫婦の場合、夫婦それぞれの収入、勤め先の企業年金の有無(DB, DC, 確定給付企業年金基金など)、将来のライフイベントに必要となる資金目標などを総合的に考慮し、NISAとiDeCoのどちらを優先するか、あるいはどのように組み合わせるかを検討する必要があります。
一般的な活用パターン(例):
- 夫婦ともに収入が高く、企業年金がない場合: 夫婦ともにiDeCoの拠出限度額まで積み立てつつ、残りの資金でNISAを活用し、短期・中期の目標資金も準備する。iDeCoで税負担を軽減しつつ、NISAで柔軟性を持たせる戦略です。
- 夫婦の一方に手厚い企業年金がある場合: 企業年金が手厚い方はiDeCoの拠出限度額が少なくなるため、その分、企業年金がない方のiDeCoを優先的に活用し、非課税枠を最大限利用することを検討します。残りはNISAで運用します。
- 教育資金など、比較的早期に必要となる資金目標がある場合: iDeCoは原則60歳まで引き出せないため、NISA(特に柔軟性の高い成長投資枠)を優先的に活用し、資金が必要となる時期に合わせて運用・引き出しを行う計画を立てます。老後資金はiDeCoやNISAの長期積立で準備します。
重要なのは、これらの制度を夫婦「それぞれ」の個別資産として捉えるだけでなく、夫婦「全体」の資産ポートフォリオの一部として位置づけ、全体としてバランスの取れた設計を行うことです。
Cさん夫婦(40代後半)は、子供の大学進学費用(あと数年で必要)と自分たちの老後資金の両方を準備する必要があります。夫は企業型DC(企業型確定拠出年金)に加入しているため、iDeCoの拠出はしていません。妻は企業年金がないため、iDeCoに毎月満額拠出し、老後資金の基盤としています。教育資金については、夫婦それぞれのNISAのつみたて投資枠を中心に、リスクを抑えたバランス型ファンドで運用しています。このように、目標期間や夫婦それぞれの状況に応じて、制度の役割分担を明確にしています。
夫婦間でのコミュニケーションと定期的な見直し
非課税制度を夫婦で賢く活用するためには、夫婦間での継続的なコミュニケーションが不可欠です。
- 夫婦それぞれの投資目標、リスク許容度、資産状況、収入状況などを定期的に共有する。
- NISA、iDeCoそれぞれの運用状況やポートフォリオについて話し合い、夫婦全体のポートフォリオが目標や戦略から大きく乖離していないか確認する。
- ライフイベントの発生や市場環境の変化に応じて、非課税枠の活用戦略やポートフォリオの見直しを夫婦で行う。
このような話し合いを通じて、夫婦で共通認識を持ち、協力して資産形成に取り組むことが、成功への鍵となります。
まとめ
共働き夫婦にとって、NISAとiDeCoは、それぞれが非課税枠を持つことができる強力な資産形成ツールです。これらの制度を最大限に活用することで、運用益への課税を抑え、特にiDeCoでは所得控除による税負担軽減効果も享受できます。
重要なのは、夫婦それぞれの個別最適な利用方法を検討しつつも、夫婦「全体」の資産形成という視点から、両制度をどのように組み合わせ、どのようなポートフォリオを構築するかを戦略的に設計することです。夫婦間での定期的なコミュニケーションを通じて、お互いの状況や目標を共有し、協力して資産形成に取り組むことが、共働き夫婦ならではの強みとなります。
税制や制度は変更される可能性もありますので、常に最新の情報を確認し、ご自身の状況に合わせた最適な戦略を継続的に見直していくことが重要です。