教育資金の「その時」に備える:共働き夫婦の準備とリアルな取り崩し計画
はじめに
40代後半の共働き夫婦の皆様にとって、お子様の教育資金、特に大学進学に向けた資金準備は喫緊の課題の一つかと存じます。同時に、ご自身の老後資金についても考えを巡らせる時期かと存じます。限られた時間の中で効率的に資産を形成し、いざという時に慌てず計画的に資金を捻出するためには、夫婦間での共通認識と具体的な戦略が不可欠です。本記事では、共働き夫婦が教育資金の「その時」(主に大学入学以降の高等教育費)に備えるための準備と、リアルな取り崩し計画について、具体的な視点から考察します。
共働き夫婦が考える教育資金準備のポイント
教育資金の準備は、目標設定から始まります。お子様の進路によって必要な資金は大きく変動するため、まずは夫婦で話し合い、大まかな目標金額を共有することが重要です。国公立大学、私立大学、文系・理系、自宅通学か下宿かなど、可能性のある進路を想定し、いくつかのシナリオに基づいた必要額を試算することをお勧めします。
準備期間が限られている場合、リスク許容度を踏まえた上で、効率的な資産形成手段を選択する必要があります。積立NISAや特定口座を利用した投資信託による積立投資は、長期分散投資によるリターンの期待と税制優遇(NISAの場合)のメリットを享受できる手段の一つです。学資保険も検討の対象となりますが、中途解約リスクやインフレ対応力など、その特性を理解した上で活用を判断する必要があります。
共働き夫婦の場合、夫婦それぞれが自身の名義で積立や運用を行っていることが一般的です。重要なのは、夫婦それぞれの資産状況を統合して把握し、「教育資金として合計でいくら準備できているか」を定期的に確認することです。資産管理アプリなどを活用し、夫婦の全資産を見える化することで、進捗状況を把握しやすくなります。誰が、どの口座で、いくらを積立・運用するかといった役割分担を明確にし、定期的な情報共有と見直しを行うことが、計画を着実に進める上で不可欠です。
教育資金のリアルな取り崩し計画
準備してきた教育資金を「その時」に、どのように取り崩していくかという計画も、準備段階から検討しておくべき重要な要素です。
いつ、いくら必要か
大学入学金、年間授業料、施設設備費、教科書代、通学費または下宿費・生活費など、具体的な支出項目と金額を想定します。入学時にまとまった資金が必要となるだけでなく、在学中も継続的に支出が発生することを考慮し、年間で必要な金額を把握しておくことが肝要です。
どの資産から取り崩すか
準備段階で様々な資産形成手段を用いていた場合、どの資産から優先的に取り崩していくかを検討します。 * 現金・預貯金: 換金性に優れ、急な支出に対応しやすい反面、置いておくだけではインフレに弱いという側面があります。必要な時期が近い資金は、一定額を預貯金として確保しておくことが安心につながります。 * 投資資産: 積立NISAや特定口座で積み立てた資産は、市場価格に応じて価値が変動します。取り崩し時期と市場状況によっては、元本割れのリスクも存在します。積立NISA口座からの取り崩しは非課税ですが、特定口座からの売却益には税金(原則20.315%)がかかります。税負担を考慮し、どちらの口座から、どのような順番で取り崩すか戦略を立てる必要があります。例えば、含み益が大きい特定口座の資産から売却し税金を支払い、NISA口座の資産は温存するという考え方や、年間非課税枠内で計画的にNISA資産を取り崩すという考え方などがあります。 * 学資保険: 満期金が設定された時期に受け取れるため、計画が立てやすい反面、それ以外の時期に資金が必要になった場合の対応には柔軟性がありません。
夫婦それぞれの名義の資産をどう扱うか、夫婦で合意形成しておくことが重要です。「夫の口座にある投資信託は主に老後資金、妻の口座にある積立NISAは教育資金」といったように、大まかに目的を区別しておくことや、「教育資金は夫婦合算の特定口座から優先的に捻出する」といったルールを決めておくことで、取り崩し時の混乱を防ぐことができます。
教育資金と老後資金のバランス
教育資金の取り崩しは、将来の老後資金計画に直接影響を与えます。教育資金を優先するあまり、老後資金の準備が不足してしまうという状況は避けたいものです。夫婦合算での全体ポートフォリオの中で、教育資金用資産と老後資金用資産をどのように位置づけ、取り崩し後も老後資金の準備を継続できるか、計画の実行可能性を定期的に検証する必要があります。
共働き夫婦におけるリアルな事例(架空)
ここでは、40代後半の共働きであるAさん夫婦(お子様高校生)の架空の事例を参考に、準備と取り崩しのリアルな側面を見ていきましょう。
Aさん夫婦は、お子様が中学に進学した頃から本格的に教育資金の準備を加速させました。目標金額は、国公立大学と私立大学進学の可能性があることを踏まえ、少し余裕を持った金額を設定し、夫婦で共有しました。準備手段としては、夫婦それぞれの積立NISA口座でインデックス投資を継続しつつ、特定口座でも追加で資金を積み立て、積極的に運用を行いました。また、お子様が幼い頃に加入した学資保険の満期金も、教育資金の一部として計画に組み入れています。資産管理アプリで夫婦合算の資産を定期的に確認し、「教育資金としてここまで準備できたね」と二人で進捗を把握していました。
お子様の大学入学が近づき、Aさん夫婦は具体的な取り崩し計画を立てました。まず、入学金や前期授業料には学資保険の満期金を充てることにしました。それ以外の学費や生活費については、夫婦合算の特定口座にある投資信託を売却して捻出する方針です。売却する際は、含み益が大きい銘柄から優先的に売却することで、実質的な利回りを高めることを意識しました。積立NISA口座の資産は、非課税枠のメリットを最大限活かすため、老後資金として可能な限り温存するという夫婦間の合意がありました。
年間で必要となる金額を算出し、必要な時期に合わせて計画的に売却・取り崩しを実行しています。夫婦間で「いつまでにいくら必要か」を常に確認し、夫が学費の振込を担当し、妻が下宿しているお子様への生活費送金を担当するなど、役割分担を決めておくことで、スムーズな資金移動を実現しています。
リアルな課題として、投資資産からの取り崩しは、市場の変動によって売却可能な金額が変動する点に難しさを感じています。特に、市場低迷期と取り崩し時期が重なった場合の対応については、夫婦で事前に話し合い、「このラインを下回ったら、一時的に預貯金を取り崩すことも検討する」「必要額の一部を現金化してプールしておく」などのルールを設けておくことで、精神的な負担を軽減し、パニック売りを防ぐ工夫をしています。
取り崩し計画における留意点と落とし穴
教育資金の取り崩しは、準備とは異なる視点が必要です。計画通りに進めるためには、いくつかの留意点があります。
- 計画の柔軟性: 計画を立てたとしても、予期せぬ支出(例:予備校費用、留学費用など)や市場の急変など、想定外の事態は起こり得ます。計画を絶対視せず、状況に応じて柔軟に対応できるよう、ある程度の余裕資金を確保しておくことや、複数のシナリオを想定しておくことが重要です。
- 感情的な判断を避ける: 市場が下落した際に、慌てて資産を売却してしまう(パニック売り)は避けたい行動です。夫婦で冷静に状況を分析し、事前に定めたルールに基づいて行動することが、感情に流されることを防ぎます。
- 税金の影響を理解する: 特定口座からの売却益には税金がかかります。必要な金額を捻出するためにいくら売却すれば良いか計算する際は、税金分も考慮に入れる必要があります。
- 夫婦それぞれの資産管理: 夫婦間で資産状況が共有されていない場合や、どちらの資産を教育資金に充てるか不明確な場合、取り崩し時に意見の対立が生じる可能性があります。事前にしっかりと話し合い、合意形成しておくことが円滑な資金捻出につながります。
まとめ
共働き夫婦が教育資金の「その時」に備えるためには、早期からの計画的な準備に加え、いざという時の具体的な取り崩し計画が不可欠です。目標金額の設定から始まり、効率的な資産形成手段の選択、夫婦間での密な情報共有と資産状況の見える化、そして取り崩し時期、金額、優先順位、税金などを考慮した具体的な計画立案が鍵となります。
単に資産を増やすだけでなく、いつ、いくら必要になるかを想定し、どの資産から、どのような順序で捻出するかを事前に検討することで、慌てることなく、かつ全体的な資産計画(特に老後資金)とのバランスを取りながら対応することが可能になります。夫婦で協力し、共通の目標に向かって計画を進めることが、未来の経済的な安心につながるでしょう。定期的に計画を見直し、必要に応じてフィナンシャルプランナーなどの専門家の意見も参考にしながら、柔軟に対応していく姿勢も重要です。
本記事が、共働き夫婦の皆様が教育資金の準備と取り崩しについて考えを深め、具体的な行動の一助となれば幸いです。